絶句、沈黙 -
den 23.10.2005 edit
いやはや、これまで哲学も、
法律学も、医学も、
むだとは知りつつ神学まで、
営々辛苦、究めつくした。
その結果がどうかといえば、
昔に較べて少しも利口にはなっておらぬ。
学士だの、おこがましくも博士だのと名告って、
もうかれこれ十年間も弟子どもの鼻面を
縦横無尽に引回してきたものの――
さて、とっくりとわかったのが、
人間、何も知ることはできぬということだとは。
思えば胸が張り裂けそうだ。
なるほど己は、そこらの医者や学者、
三百代言、坊主などという、いい気な手合いよりは賢いし、
要らざる迷い、疑いも知らず、
地獄や悪魔を恐いとは思わぬが――
その代りには、生きるたのしみというものが全くなくなってしまった。
己は何か真理を握って、ひとの手本になり、
その心を浄めたり、教え導いたりできようなどとは
自惚れてはおらぬ。
そうかといって、財物もなければ金もなく、
ひとに崇められもせず、栄耀の味も知らぬ。
犬にしたところが、こんな有様で生き存らえて行くのはいやだろう。
『ファウスト』
一切の書かれたるもののうち、われはただ、血をもつて書かれたもののみを愛する。血をもつて書け。しかるとき、なんじは悟るであろう、――血、すなわち精神であることを。
……読者とはいかなるものなるか、を知る人は、もはや読者のためには何事も為さぬであろう。読者をしてなお一世紀あらしむれば、――精神自体までも悪臭を放つに至るであろう。
……血をもつて、また箴言をもつて書く者は、読まれることを要求せぬ。暗誦されることを要求する。
よき人も悪しき人も、すべてが毒杯を仰ぐ所、之すなわち国家である。よき人も悪しき人も、すべてが自らを喪失する所、之すなわち国家である。あらゆる人間の緩慢なる自殺が――「生活」とよばれる所、之すなわち国家である。
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらは発明者の作品と賢人の財宝とを盗みながら、その盗品を教養と呼んでいる。かくして、かれらに於いては、一切が病いとなり煩いとなる!
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらはつねに病んでいる。かれらはその胆汁を吐瀉する。之いわゆる新聞である。かれらは互に啖いあつている。しかも、消化することができない。
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらは富を追求し、このためにますます貧に堕する。かれらは権力を念願し、まず権力の鉄鎚なる金銭を念願する。――この無力なる者共が!
見よ、これらの敏捷なる猿どもが攀じ登るさまを!かれらは我先に他を超えて登り、ついに泥濘と奈落へとずり落ちる。
『ツァラトストラ』
法律学も、医学も、
むだとは知りつつ神学まで、
営々辛苦、究めつくした。
その結果がどうかといえば、
昔に較べて少しも利口にはなっておらぬ。
学士だの、おこがましくも博士だのと名告って、
もうかれこれ十年間も弟子どもの鼻面を
縦横無尽に引回してきたものの――
さて、とっくりとわかったのが、
人間、何も知ることはできぬということだとは。
思えば胸が張り裂けそうだ。
なるほど己は、そこらの医者や学者、
三百代言、坊主などという、いい気な手合いよりは賢いし、
要らざる迷い、疑いも知らず、
地獄や悪魔を恐いとは思わぬが――
その代りには、生きるたのしみというものが全くなくなってしまった。
己は何か真理を握って、ひとの手本になり、
その心を浄めたり、教え導いたりできようなどとは
自惚れてはおらぬ。
そうかといって、財物もなければ金もなく、
ひとに崇められもせず、栄耀の味も知らぬ。
犬にしたところが、こんな有様で生き存らえて行くのはいやだろう。
『ファウスト』
一切の書かれたるもののうち、われはただ、血をもつて書かれたもののみを愛する。血をもつて書け。しかるとき、なんじは悟るであろう、――血、すなわち精神であることを。
……読者とはいかなるものなるか、を知る人は、もはや読者のためには何事も為さぬであろう。読者をしてなお一世紀あらしむれば、――精神自体までも悪臭を放つに至るであろう。
……血をもつて、また箴言をもつて書く者は、読まれることを要求せぬ。暗誦されることを要求する。
よき人も悪しき人も、すべてが毒杯を仰ぐ所、之すなわち国家である。よき人も悪しき人も、すべてが自らを喪失する所、之すなわち国家である。あらゆる人間の緩慢なる自殺が――「生活」とよばれる所、之すなわち国家である。
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらは発明者の作品と賢人の財宝とを盗みながら、その盗品を教養と呼んでいる。かくして、かれらに於いては、一切が病いとなり煩いとなる!
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらはつねに病んでいる。かれらはその胆汁を吐瀉する。之いわゆる新聞である。かれらは互に啖いあつている。しかも、消化することができない。
見よ、これらの無用なる人間共を!かれらは富を追求し、このためにますます貧に堕する。かれらは権力を念願し、まず権力の鉄鎚なる金銭を念願する。――この無力なる者共が!
見よ、これらの敏捷なる猿どもが攀じ登るさまを!かれらは我先に他を超えて登り、ついに泥濘と奈落へとずり落ちる。
『ツァラトストラ』