オースター -
「父は百万長者になることを生涯夢みていた。世界一の大金持ちになることを望んでいた。でも父が欲したのは金それ自体ではなく、金が意味するものだった。世間的に見た成功ということだけでなく、金とは父にとって、自分を不可触の存在にするための手段だった。金があるということの意味は、物を買えるという点にとどまるものではない。それは、自分が世界から影響されずに済むということでもあるのだ。いいかえれば、快楽ではなく、防御という意味における富。金のない子供時代を送り、ゆえに世界の気まぐれに翻弄されつづけてきた父にとって、富という概念は逃避という概念と同義になっていた。危害からの逃避、苦しみからの逃避、犠牲者の立場からの逃避。父は幸福を買おうとしていたのではない。不幸の不在を買おうとしていたのだ」『孤独の発明』
「……この暮らしは刑務所に戻ったのに少し似ていた。どうでもいい心配事に足を引っぱられたりもせず、生活は本質のみに切りつめられ、どうやって時間を過ごしたらいいか、もはや思案する必要もない。毎日が前日とほぼ同じくり返しだった。今日は昨日に似ていて、明日は今日も似るだろうし、翌週起きることは今週起きたことに溶けあうだろう。それは彼にある種の安楽をもたらした。意外性が排除され、精神はシャープになって、仕事に集中できるようになった」『リヴァイアサン』
den 22.08.2006 edit
「父は百万長者になることを生涯夢みていた。世界一の大金持ちになることを望んでいた。でも父が欲したのは金それ自体ではなく、金が意味するものだった。世間的に見た成功ということだけでなく、金とは父にとって、自分を不可触の存在にするための手段だった。金があるということの意味は、物を買えるという点にとどまるものではない。それは、自分が世界から影響されずに済むということでもあるのだ。いいかえれば、快楽ではなく、防御という意味における富。金のない子供時代を送り、ゆえに世界の気まぐれに翻弄されつづけてきた父にとって、富という概念は逃避という概念と同義になっていた。危害からの逃避、苦しみからの逃避、犠牲者の立場からの逃避。父は幸福を買おうとしていたのではない。不幸の不在を買おうとしていたのだ」『孤独の発明』
「……この暮らしは刑務所に戻ったのに少し似ていた。どうでもいい心配事に足を引っぱられたりもせず、生活は本質のみに切りつめられ、どうやって時間を過ごしたらいいか、もはや思案する必要もない。毎日が前日とほぼ同じくり返しだった。今日は昨日に似ていて、明日は今日も似るだろうし、翌週起きることは今週起きたことに溶けあうだろう。それは彼にある種の安楽をもたらした。意外性が排除され、精神はシャープになって、仕事に集中できるようになった」『リヴァイアサン』