脚のない机 -
その音楽ホールには千人以上の人間がいたが、まともな人間はひとりもいなかった。とても前衛的(丶丶丶)な作曲家が胡琴やら琵琶やらの中国民族楽器のオーケストラのために書いたという奇怪な音楽がステージ上で演奏されていた。二・八分けの中国人指揮者はとても誇らしげに指揮棒を振っていたが、壇下には黒ずめの中国人演奏家が二百人くらいゴミのように座っていた。アジア人は本当に冴えない、と僕は思った。ただ数が多いだけだ。もし人間が犬だとしたら、アジア種はきっと人気がないだろうと思った。実際、アジアの犬だって(丶丶丶丶丶丶丶丶)冴えないじゃないか。僕はダルメシアンになりたいと思った。それでも、黒ずめの中国人演奏家のほうは100%の熱意で、前衛的な民族音楽を観客の耳に訴えていた。我々はここまで進歩したのですよ、とでも証明したそうだった。ある意味ではそれはまたプロパガンダの音楽だった。二胡やら琵琶やら喇叭やら木琴は恐らく何リットルもの汗をかきながら、音を作り続けた。突然盛り上がっては、急に静まりかえる、例の近代音楽を。民族楽器によるポスト・クラシック音楽を。それは僕に「脚のない机」を想像させた。その音楽には由来(丶丶)がなかった。
事実を包み隠すためだろうか、二・八分けの中国人指揮者はいきなり観客のほうを振り返ってにこやかに踊り始めた。喇叭の音をつり上げ、踊らせ、さらにつり上げるパフォーマンスだった。それは観客に拍手を強要した。こんなコンサートに来る観客の方も白痴なのでサーカスのような盛大な拍手が送られた。僕は両手を膝の上に並べて何とかやり過ごそうとしたが、結局気まずくなって拍手した。僕はダルメシアンにはなれないのだ。だが、それで決定的に嫌気がさし、その後僕は音楽に集中できなくなった。僕は壇上に駆け上がってオーケストラのいちばん美人な子にキスをしようかと思った。観客は唖然とし、僕はオーケストラの男連中に取り押さえられるだろう。でもそんなことはいっこうに構わず、僕は候補の女の子を目で探した。ひとり、ふたり、どの子もどうしようもなく皆チュウゴクジンに見えた・・・・・・。そうしているうちにようやく休憩時間になり、僕は人ごみを押しのけて退場した。
テムズ河にかかる橋を渡ると少し肌寒い風が吹いた。遠くの方には聖ポール大寺院が見え、何艘かのボートが静かに流れていた。左手には大きな観覧車がぴかぴか光りながら回っていた。橋の向こうのほうからストリート・ミュージシャンの吹くサックスの音が聞こえた。僕はようやく真実味のあるものに帰ってきた気がした。ポケットの硬貨を何枚かやろうかと思ったが、近づいてみると演奏しているのは白人の男だったので、やっぱりやめることにした。
den 15.03.2008 edit
その音楽ホールには千人以上の人間がいたが、まともな人間はひとりもいなかった。とても前衛的(丶丶丶)な作曲家が胡琴やら琵琶やらの中国民族楽器のオーケストラのために書いたという奇怪な音楽がステージ上で演奏されていた。二・八分けの中国人指揮者はとても誇らしげに指揮棒を振っていたが、壇下には黒ずめの中国人演奏家が二百人くらいゴミのように座っていた。アジア人は本当に冴えない、と僕は思った。ただ数が多いだけだ。もし人間が犬だとしたら、アジア種はきっと人気がないだろうと思った。実際、アジアの犬だって(丶丶丶丶丶丶丶丶)冴えないじゃないか。僕はダルメシアンになりたいと思った。それでも、黒ずめの中国人演奏家のほうは100%の熱意で、前衛的な民族音楽を観客の耳に訴えていた。我々はここまで進歩したのですよ、とでも証明したそうだった。ある意味ではそれはまたプロパガンダの音楽だった。二胡やら琵琶やら喇叭やら木琴は恐らく何リットルもの汗をかきながら、音を作り続けた。突然盛り上がっては、急に静まりかえる、例の近代音楽を。民族楽器によるポスト・クラシック音楽を。それは僕に「脚のない机」を想像させた。その音楽には由来(丶丶)がなかった。
事実を包み隠すためだろうか、二・八分けの中国人指揮者はいきなり観客のほうを振り返ってにこやかに踊り始めた。喇叭の音をつり上げ、踊らせ、さらにつり上げるパフォーマンスだった。それは観客に拍手を強要した。こんなコンサートに来る観客の方も白痴なのでサーカスのような盛大な拍手が送られた。僕は両手を膝の上に並べて何とかやり過ごそうとしたが、結局気まずくなって拍手した。僕はダルメシアンにはなれないのだ。だが、それで決定的に嫌気がさし、その後僕は音楽に集中できなくなった。僕は壇上に駆け上がってオーケストラのいちばん美人な子にキスをしようかと思った。観客は唖然とし、僕はオーケストラの男連中に取り押さえられるだろう。でもそんなことはいっこうに構わず、僕は候補の女の子を目で探した。ひとり、ふたり、どの子もどうしようもなく皆チュウゴクジンに見えた・・・・・・。そうしているうちにようやく休憩時間になり、僕は人ごみを押しのけて退場した。
テムズ河にかかる橋を渡ると少し肌寒い風が吹いた。遠くの方には聖ポール大寺院が見え、何艘かのボートが静かに流れていた。左手には大きな観覧車がぴかぴか光りながら回っていた。橋の向こうのほうからストリート・ミュージシャンの吹くサックスの音が聞こえた。僕はようやく真実味のあるものに帰ってきた気がした。ポケットの硬貨を何枚かやろうかと思ったが、近づいてみると演奏しているのは白人の男だったので、やっぱりやめることにした。